RPAツールの導入を進めていく上で、プロジェクト推進体制は非常に重要な意味があります。特に弊社がお勧めしている WinActor はWindowsパソコンにインストールするだけで使える手軽さのため、業務ユーザー部門が主導して自分達の日頃の業務を効率化する部分最適の方向に進みがちです。
しかし、この様な進め方をした場合、その後の全社展開に進み難くなるのは目に見えていますし、しっかりとした体制が整っていなかった為に運用段階に入ってから苦労されるはめになっている企業は多いのです。
この様なことにならない様に、最低限のコストでRPAツールを導入し、運用していく為のノウハウを体制面から網羅的にご紹介しています。
RPAロボットの導入体制
RPAの導入は一歩間違うと過去のEUCブームの時のように運用段階に入ってから統制が効かず、無管理状態となる可能性が多分にあり、導入当初からIT部門がある程度関与して、導入後の運用も見据えたプロジェクト体制を組んで進める必要があります。
その導入アプローチとしては、大きく以下の3つのタイプがあります。
業務ユーザー主導型
当初から業務ユーザーが主体的に自分たちの日常業務を自動化・効率化するツールとしてパイロット導入から本格展開まで進めるやり方です。
IT部門はあくまでアドバイザー的に参加し、基幹システムやネットワーク環境へのアクセスなど、社内システム保守の立場で関わります。
そして、RPAソフトのライセンス購入の窓口として契約実務や、どこの部署のどのPCでRPAロボットが稼働しているのか等、ユーザー部門管理では行き届かない部分をサポートします。
また、ユーザー部門主導で導入すると、周辺の業務部門への横展開が難しくなる可能性もありますので、RPAツールの使い方のノウハウやドキュメント類をIT部門が管理し、RPAによる自動化効果の計画的な横展開を促進する役割も担います。
この様に業務ユーザ部門が主導的にRPAを導入する場合でも、やはりRPAツールの使い方を習得したり解らない部分を問い合わせたりといったことは必ず発生します。
この様なお問合せへの対応やご相談に対応させて頂く最低限のサポート窓口として、また業務ユーザーが独自にプロジェクトを推進していけるようにプロジェクト推進サポートもさせて頂いております。
IT部門主導型
もう少し、当初から全体のロードマップ・展開計画を作成し、IT部門が計画的に進めるアプローチです。
IT部門がプロジェクト全体を主導して進めますので、本番移行後の運用サポートもIT部門が担い、ロボットの稼働状況や部門別のライセンス需要を計画的に調整します。
この場合の注意点として、やはりIT部門はITシステムの視点に陥りがちで業務ユーザーが見た時に然程重要とも感じていないシステム内部の構造や言語などに注意が行きがちです。
あくまで業務効率化と言うビジネス効果を最低限の投資で実現するROI(投資対効果)の視点を業務部門が補う必要があります。そして、常にプロジェクトと目標に立ち返り、会社全体としてROIを最大化するにはどうすべきかを考えてプロジェクトを推進していく必要があります。
全社プロジェクト型
こちらは更に大規模に全社レベルで業務を再整理し、自動化可能な繰り返し業務を抽出してRPAで自動化するアプローチです。
グループ会社が何社もあるような企業であれば、グループ会社も含めて業務フローを再整理すると更に大きな業務効率化の効果が得られます。
特に、営業事務や経理・財務、人事、総務などの間接部門は比較的どこの会社でも同じような業務をしている可能性が高く、従来からこのような「間接業務集約化」の対象にすることが多くありました。
この様な場合、間接部門の業務フローを再整理してRPAロボットにより一旦自動化しますが、その先にはそのRPAロボットの管理も含めて外部にBPOとして委託するような流れが一般的かと思います。
よって、本社、それもトップマネージメント主導で全社の改革プロジェクトとして大規模に進める必要があります。
導入・運用体制を考慮したRPAの選定方法
RPAソフトウエア機能を比較した場合
RPAとは、PCで行っている繰り返し業務を自動化するツールで国内外のベンダーから多くのソフトウエアが販売されていますが、その仕組みや機能はほぼ同じです。
よって、RPAソフトウエアの選定は価格や日本国内でのサポート体制などを基準に選んで問題ないと考えて良いかと思われます。RPAツールが普及してきたとは言っても未だ発展途上のソリューションです。この様なソリューションを選ぶ場合、むしろ重要なのはエンジニアの層の厚さ(≒ 国内導入実績)や基本としているテクノロジーでしょう。
どんなに優れた機能があったとしても、ごく希にしか使わない機能の有無を重要視するあまりに導入に必要となるエンジニアを殆ど調達出来なかったり、調達出来ても普通のエンジニア単価の何倍もするのではROIが下がってしまいます。
運用体制を考慮したRPA選定
しかし、IT部門主導、もしくは全社プロジェクト体制としてRPAロボをある程度以上の規模・数で導入する場合、どうしても、その後のRPAロボットの保守性や運用体制を考慮する必要があります。
そのため、このような導入体制を採る場合は、RPAロボットの集中管理や集中動作監視が可能なRPAソフトウエアを選択する事になります。具体的には、下記のようなパッケージはRPAロボットの集中管理が可能です。
◆ サーバー開発型
- Automation Anywhere(米Automation Anywhere)
- Blue Prism(英Blue Prism)
- Kofax Kapow(米Kofax)
- NICE RPA(NICE Systems)
◆ PC導入型
- WinDirector(NTTデータ):複数の下位ロボットを管理する上位ロボット
RPA対象業務の選定方法
RPAロボットによって業務を自動化しようとした場合に、その対象とする業務を選んでいくわけですが、ここに失敗と成功を分ける重要なコツがあります。どこの業務を選んで、どこから初めても良いわけではありません。
RPAで自動化可能な業務
RPAで自動化可能な業務とは、下記の点を満たす業務フロー(の一部)になります。
- PCで実施している業務
- 繰り返し作業
- ある程度の作業量がある
RPA自動化の対象とすべき業務
上記のRPAで自動化可能な業務フローの内、どの業務をRPA自動化の対象業務として選定するかですが、下記のような点を踏まえてRPAで自動化すべき範囲(スコープ)の選定をお勧めしています。
- 紙の伝票、注文用紙、レポート類を含まない
- PCでの作業に閉じている
- 毎日、毎週など頻度が高く、作業分量がある(手作業で残業している)
導入効果を最大化する対象業務選定
特に、上記の全社プロジェクト型としてプロジェクト体制を組んで進める場合、失敗は許されませんので、
- 先ずは限られた範囲の自動化であっても、成功事例として業務効率化の効果を数字で出せる
- 「あの部署だから出来たが、自分の部署は規模や仕事内容が違い、出来ないのでは」と言わせない主要部門である
- 展開計画を当初から明らかにし、全社レベルで業務フローを組み直す
- 基幹システムなどの周辺システムとの住み分け、分担も含めて見直す
RPAロボットの導入効果を最大限に発揮させるには、上記のような点に注意してプロジェクト体制・進め方を検討して頂ければ良いかと思います。
特に、従来はERPやCRM、MESなどの基幹システムにアドオン開発していたような機能をパッケージ内部に開発せず、RPAロボット化するのは大きな効果がありますので、合わせて検討していくと更に導入効果を大きなものに出来るかと思います。
各RPA導入アプローチ・体制のメリット・デメリット
業務ユーザー主導型
■ メリット
業務ユーザー主導でRPAロボットを導入するメリットは何と言っても手軽に、素早く導入でき、効果を実感出来る点かと思います。
■ デメリット
業務ユーザー主導でRPAロボットを導入しようとすると、どうしても個人レベルに知見やノウハウが滞留し、なかなか広がっていきにくいように思います。また、IT部門の巻き込みが弱く、「業務部門が勝手にやってる事だからITは知らない」となり、後々IT部門の協力を得にくくなったりする懸念もあります。
IT部門の巻き込みが弱いと、全社に導入効果を展開していく場合にレバレッジが効かせ難い点も問題になるようです。
IT部門主導型
■ メリット
IT部門はRPAのようなシステムの大規模導入プロジェクトの予算を計上し、進めていく事に慣れているため、業務効率化の効果が大きいと判断すれば容易に全社展開に進めることが出来ます。
また、RPAのドキュメント類やナレッジそのものをどの様に管理し、社員が見やすくポータルサイトで管理するかなどの手法にも慣れていますので、その点でもメリットがあるかと思います。
ERPなどの基幹システムを導入・管理しているのもIT部門ですので、ERP画面への手入力などを含めて効率化が可能な点も大きいかと思います
■ デメリット
やはり、基本的にはIT部門自体が需要部門ではないため、年度・半期などのタイミングで予算計上して計画的に進めていくことになりますので、その段取りなど多少スピード感は落ちる場合が多いかと思います。
また、IT部門は外部のITベンダー等にシステム開発・運用を委託する事が多いため、それらの外部ベンダーにあまりに依存(丸投げ)し、システム導入自体が目的化してしまう傾向があります。
俗に言う「ベンダーロックイン」の状態になりがちですので、RPA導入プロジェクトの業務目的を明確にして進めていく必要があります。
全社プロジェクト型
■ メリット
全社、もしくはグループ会社全体で間接業務などの業務フローを再整理し、切り出してRPA自動化しますので、その導入効果を最大限に享受できます。
全社レベルでRPA導入プロジェクトを推進しようとすると、そのプロジェクトの旗振り役はどうしても会社のトップと言うことになります。社長もしくはその直轄組織がその役割になりますので、本気度は社員に伝わるかと思います。
■ デメリット
ただでさえ忙しい会社のトップがどこまでRPA導入プロジェクトに関われるか、その本気度をプロジェクトメンバーや社員に示す為にもトップ自ら指揮すべきとは思いますが、なにぶん時間も限られるのは事実です。
そして、導入プロジェクト自体が大規模になりますので、費用も数千万円規模になる場合が多いかと思います。
各RPA導入体制のコスト比較
業務ユーザー主導型
■ RPAソフトウエアライセンス費用
十分な機能を持ち安価な WinActor の場合、ユーザー単位の年間契約となっています。ライセンスには2種類あり、開発ライセンスが1ユーザはないとシナリオ作成が出来ませんので、最低で年額、約91万円となります。
- 開発ライセンス(シナリオ作成が可能):約91万円/年
- 実行ライセンス(シナリオ実行のみ) :約24万円/年
■ RPA導入コスト
業務ユーザー主導でRPAツールを導入する場合は、導入コストは0円で済みますが、やはり、RPAロボットの使い方や対象業務フローの選び方などの相談相手があったほうが良いかと思います。
IT部門主導型
■ RPAソフトウエアライセンス費用
IT部門主導で導入する場合はRPAのタイプとしては、以下の2種類を対象候補と考えれば良いかと思います。
- PC導入型:約24万円/年(実行ライセンス)+約91万円/年(開発ライセンス)
- サーバー開発型:数百万円~
サーバー開発型RPAの場合は、IT部門主導でよりIT導入プロジェクトの色彩が濃い導入スタイルとなります。
■ RPA導入コスト
IT部門主導でRPAを導入する場合、IT部門が完全にプロジェクトを管理し進めて行ければほぼ内部の原価で済みます。
しかし、特にサーバー開発型RPAはITプロジェクトとしてサーバーのソフトウエアを開発していく場合に近い、いわゆるシステムインフラ的な要素を含みますので、少なくとも最初のプロジェクトは外部のコンサルタントに依頼されたほうが良いかと思います。
その場合は2人*3ヵ月(数百万円程度)は予算として考えておいたほうが良いかと思います。
全社プロジェクト型
■ RPAソフトウエアライセンス費用
こちらは完全に全社プロジェクトとして大規模に進める場合ですので、やはりRRPロボットの集中管理・監視が可能なサーバー開発型のRPAが適切かと思います。
ライセンス費用は規模にもよりますが、数百万円~と考えておく必要があります。
■ RPA導入コスト
大規模に全社レベルでRPAを導入する場合は、全社レベルで業務フローを再整理することになりますので、やはり外部コンサルタントに相談されるのが良いかと思います。その場合、どこまで依頼するかですが、PMO的ないわゆるプロジェクト事務局の支援であれば、会社にもよりますが2人*6カ月程度(3000万円~)で可能かと思われます。
RPAロボット統制を意識した保守・運用体制とは
保守性を考慮した運用体制
上記のどのRPA導入アプローチを採ったとしても、RPAをツールとして自分のPCに導入して、それなりのRPAシナリオを作成するのは業務ユーザー自身で十分可能です。
しかし、プログラミングが不要だとは言ってもやはりソフトウエアですので、本格的に大規模に使っていこうとした場合に注意しておくべき下記のような点があります。
- 業務フローは常に変化する
- 人も変化(異動、担当変更、入退社など)
- システム環境も変化する
一旦業務フローを整理し、RPAシナリオを作成して自動化したとしても、内外のビジネス環境は常に変化していると言うことです。
RPAの作成・導入よりも、その後使い続ける為の運用体制を当初から意識する事が重要
これを考えずに、業務ユーザー主導でRPAロボットを無管理に増やしていくと、必ずその先は何処のPCでどの様なRPAロボットが動いているのかすら判らない、統制が効いていない状況に陥ります。
そして、上記のような人事異動や退職、外部環境の変化などを機に、RPAロボットの何処どう修正したら良いか解らず、結局使われなくなっていってしまいます。
この様な状況を避ける為にも、やはり、RPAの導入プロジェクト当初からIT部門が関与することで管理・統制が効いた状況を作り出していく必要があります。
運用体制とは
よって、業務フローや、人事異動、システム環境変化などに対応できるように、やはりRPAでもシステムとしての保守・運用体制を当初からある程度考慮して進める必要があります。
完全に業務ユーザー主導でRPAを導入しても、導入した当初は記憶も新しく、マニュアル類のありかも明確で問題ないのですが、人事異動で人が異動し、顧客都合などで業務フローが変わった場合に何処をどう直すべきか、誰かが把握しておく必要があります。
将来のAI化を考慮した体制とは
RPAとAIの関係
RPAロボットの導入はAI機械学習による最適化、自動化と合わせて語られる事が多くなっています。
ホワイトカラーの生産性を向上し、外国企業なみの効率的な業務オペレーションによる競争優位性を獲得・維持していくには、やはりRPAによる繰り返し業務の自動化の先のAI機械学習の導入を見据えておく必要がある。
将来のAI化を見据えた体制・アプローチとは
そして、特に上記の全社プロジェクトとしてRPAを導入する過程でグループ会社を含めた全社の業務フローを再整理し、一旦RPAロボットによる自動化をする事は、その先のAI導入につながりまず。
将来的にRPAとAI機械学習を組合わせることで出来そうなことをこちらにまとめていますので参考にして下さい。⇒
よって、やはりRPA導入の先のAI機械学習による更なる自動化・効率化を考えた場合、全社プロジェクト体制として進めることとなります。
そして、AIを実業務に適用しようとした場合に殆どの会社にはAI学習に使える十分なデータがなく、データ間の関係が不明確なため、進められない状況となってしまいます。
この様な事を避ける為にも、下記の点をRPA導入プロジェクト実行時点から考慮して頂くのが良いかと思います。
- 何処にどの様なデータ存在し、どう流れているのかを把握し、明確化する
- 情報(データ)間の関係、論理・因果を解き明かす
- 現状、RPAで自動化する上での障害とAIで解決すべき課題を抽出する