一般にPoCと言われる頭の中で考えたデータ活用やAIの仮設を検証する作業が必要となります。どんなに上手くいきそうなアイデアであっても、実データを基に検証してみないと実際にそのアイデアが機能するのか、誰にも効果が出るのか判らないのです。AI活用の事例を求める会社が多くありますが、ある会社で効果が出ても自社で同じ結果になることはありません。
AIやデータ分析の場合、事例は殆ど意味が無いのです。環境がそれぞれ違うことに早く気付く必要があります。
PoCの結果、初めて効果が判る
いつも突き当たる部分なのです。最初はAIでこんな事も出来るのではないか、あれも出来るのではないか、と夢が膨らむのですが、いざ実際にやろうとするといろいろな現実につきあたります。
何が良くなるか判らないものに予算はつけられない
システム導入をしようとした時に、日本企業の上層部は必ず導入効果を金額で出せ、(いわゆるROIのことですが)と言います。言われた担当者はしようがないので、鉛筆なめなめ、残業がXX時間減って、人員は何人減らせる、などと定量効果を主に費用削減の方向でひねり出します。
「システム導入=費用削減」この考え方が根強くあり、本当にこれが実現しているのであれば、既に何十年も前に多くの企業の原価はマイナスになっているのではないでしょうか。この考え方から脱却しない限り、大きな飛躍はない
と思います。
直ぐに何かの金額効果に結びつくような単純な投資領域は残っていない会社が殆どでしょうし、このような単純な費用対効果だけで判断出来るのであれば、小学生でも意思決定出来るでしょう。
数年先を見据えて、今から社内に知見を蓄積すべくスタディーしていく。自社内の課題と複雑に絡んだ原因の因果関係を調査・分析する体制、戦略的な考え方が求められている
もしくは、費用削減ではなく、真剣に売り上げを伸ばすにはどうしたら良いのかを考える。売上に直結するような施策はそうは有りません。したがって、数年先を見据えて方向性を決定し着実にそちらの方向へ進めていく姿勢が必要なのだと思います。
日本では目標管理が評価の仕組みに
それでも、プロジェクトとして何とか進めていこう、となると今度は確実に結果を出せそうにはないAIの部分を担当したがる人がいなかったりします。
多くの企業の評価がMBO(目標管理)だったりすると思いますが、年初に目標を立てて管理者と合意し、年間を通して達成していく管理方法です。成果は目標に大きく依存します。
このMBOの考え方を考案したマイケル・ポーターは、「このMBOの運用を絶対に評価に結び付けてはいけない」と言っています。
それが、どう言う訳か日本に入ってきたとたん評価の仕組みになってしまっていたのです。
評価に関わるので、結果が見えないものは担当したがらない
このMBOを評価精度に組込むと、高い目標を立てられなくなると言うのがマイケル・ポーターの意図です。
実現しやすい、道筋が見えている目標であれば、淡々と実行するのみで、たやすく成果を出すことが出来ますが、AIで何かを、となると最初から目途がついているような事は殆ど無く、それこそ「やってみないと判らない」世界ですので、その成果目標の達成は極めて怪しくなってきます。
MBOは結局、従来路線の延長線上で予想出来る予定調和であり、マネージャも多くの場合、部下の目標設定には、本人が達成出来そうな目標を与えます。
そこには、出来るか判らないが新しい事にチャレンジしてみる、と言うチャレンジ精神の考え方はほぼ入って来ないでしょう。本来のMBOの考え方はそうでは無いのだと思いますが、現実のMBOの運用としては、殆どの日本企業でそうなっていると思います。
少なくともマネージャ自身が想像でき、可能と思われる範囲内での目標設定であり、そこには大きな飛躍・発展の可能性はほぼないのです。
現在のように、技術も日々進歩し、ビジネス環境も目まぐるしく変化する時代には、常に新しいことにチャレンジし半歩でも前進してみて、また考えるような事が必要で、チャレンジした事自体を評価する仕組みがある会社と、それが無い会社では長い期間で見ると大きな差になってくるのだろうと思います。
結果が出そうになると、急にメンバーが増える
そして、これもよくある事なのですが、プロジェクトが成功しそうだとか、何か成果が出そうになるといつの間にかプロジェクトに係わるメンバーが増えてきたりします。
今まで殆ど顔を出していなかった人が急に出てきたり、殆ど何もやっていないのに、いかにも自分が主導して達成出来たかのように話すマネージメントなどがいたりします。
AI活用を丸投げで高価なものに
このような人ほど当初は、そんな事が本当に出来るのか?などと懐疑的だったり、外部ベンダーに効果を立証しろ、保証しろ、などと、元になる情報も提示せずに無理な事を言って来たりするような人だったりします。
この様な関係で、AIのビジネス活用をしようと外部に丸投げしますから、受けるほうもリスクが大きすぎるため、その分の金額を乗せた見積をせざるを得なくなってしまいます。
まとめ:POCで見極めるしかない
AIのビジネス活用やデータ分析・活用が決して、従来のシステム開発会社への丸投げでは出来ない理由がこの辺りにあります。発注する側は、効果が見えないと発注金額も確定できず、システム会社からの見積が妥当なものなのかの判断もし難いでしょう。
委託される側としても、結果が出る保証も、見当もついていないシステム開発を受注し難いですし、どの程度の費用と期間を要するか見当もつかず見積すら難しいでしょう。
やはり、外部のスキル、知見を借りつつ自社が主導して、自社のビジネスでAIを活用出来そうな領域のデータを収集し、実証検証することにより、ある程度の目途をつけてからでないと、システム実装を発注することは出来ないのです。