IoTと言っても当初は遠隔監視程度から始める会社が多いと思いますが、AIを活用した予測などの精度・効果を実感してくると、遠隔制御、そして自動化へと欲が出るのが人間です。
その時、今起きていることをリアルタイムで外部から把握し、コントロールし、連携していく方向へいくのは必然であります。
IoT化によるリアルタイム性を実現
外部モニタリングだけなら簡単
従来から工場内には集中監視室があり、オペレータが詰めて設備全体の稼働状況、生産の状況を監視している会社は多いと思います。
それらの集中監視しているモニター画面をインターネット経由で外部から見れるようにするのは然程難しいことではありません。プラント制御機器メーカーからはスマートフォンで外部から制御装置のモニタリングをする仕組みが多く売り出されています。
それでは、なぜ今ここまでIoTが叫ばれているのでしょうか? それは、単に外部からモバイル機器などで監視する以上に外部とのリアルタイム情報連携し、企業を跨いで社会全体が連携して動く世界が見えてきたからなのです。
CSVファイル連携はナンセンス
従来型のIT会社に相談すると、必ず「出来ます」といいつつ、データをCSVなどのファイルでFTP送信して・・・と言うような提案をして来ます。
IoTやスマートファクトリーと言われるようなドイツ政府が提唱しているインダストリー4.0を具現化した世界観を全く解っていないとしか思えないのです。
確かに、恐らく企業の情報システム部門が取引しているような従来のビジネスシステムでは、現在でも殆どの場合取引情報をCSVファイル連携しています。
そして、受け取ったファイルを読み込み、夜間バッチ処理などでデータベースに取込んだりしているのが殆どです。
そうなっているのにはそれなりに理由があり、ファイル連携のほうが通信経路上やシステムトラブルで情報が失われるリスクが少なく、そのようなトラブルが発生した場合に後から連携経路を調査してリカバリー処理を容易にできたりします。
リアルタイムの意味・レベルが違う
ビジネス系のシステムで扱うデータは主に取引情報であって、多少の欠損・間違いも基本的には許されません。しかし、求められる時間の感覚はあくまで人間のビジネス取引におけるリアルタイム性であって、せいぜい単位、月単位程度なのです。
しかし、それらのビジネス系のシステムと、今IoTと言われている世界とは全く違うのです。
それは、製造設備と情報系システム、会社間、人がリアルタイム情報に基づき、情報間の因果関係が明確になった状態で連携して効率的に動く世界を志向している。
他の機器、工場、企業との連携を想定している
工場内・製造設備間
リアルタイムに連携するとは、例えば、前工程や部品工場の生産の遅延がリアルタイムにデータ連携で判れば、後工程では別の製品を生産するためにリアルに柔軟に小ロットで生産計画を組み替えていくことが可能となります。
人が殆ど介在しない形で、自動連係するからこそ出来ることですが、技術的には可能になってきています。
自社の在庫が、販社や代理店、小規模なデポ(預け)拠点に分散していたとしても、IoTによって然程費用を掛けなくてもリアルタイムに把握出来るように出来ます。
また、輸送中であっても必要であればGPSなどを用い、その正確な場所を把握できます。これらの情報があれば、自動で生産計画や物流計画を柔軟に最適化出来るでしょうし、顧客への正確な納期回答も可能となります。
社外からの連携・制御
また、一足飛びにそこまで行けなくてもその手前でいくらでもIoT化の効果を享受していくことは可能です。
私が関わったある食品メーカーの工場では、菌の培養、発酵に数十時間~数か月の間、昼夜問わず設備の制御盤の前でオペレータが監視しているような状況でした。土日も夜間も2,3時間おきに見に行く必要があるのです。
これなどは、単純にインターネット経由で設備の稼働状況を監視し、設備エラーなどが出れば、その停止処理や圧力、温度、流量などの設定プログラムの変更をリモートで出来るようにしただけで、わざわざ土日、夜間に工場設備の場所まで行く必要を無くすことが出来ました。
リアルタイムで状況を把握できるからこそ可能なのです。決してファイル連携・夜間バッチの世界では不可能なのです。
企業を跨いだ連携
現在では、SNS、ニュースサイトの情報や顧客システムでの生産計画、気象データなど様々な情報をインターネット経由で入手可能です。
これらの情報を基に需要計画をリアルに組換え、生産計画、調達計画に反映していくような事が全てはやる気次第で既に技術的に可能なのです。
昔から言われていてなかなか実現が難しかったCPFR(collaborative planning, forecasting and replenishment)も実現可能なのです。これは次のような考え方から来ています。
簡単に言えばSCMの下流(最終消費者)から最上流(原料メーカー)まで需要情報を連携・集約していき、逆にサプライ情報を上流から下流へ連携する考え方です。
実際にはこれらの間にバッファーとしての在庫があったり、生産や調達ロットの制約など様々な要素を加味して全体が情報連携して連鎖して動く世界です。
その先にはAIによる最適化の世界がある
何れにしても、IoT化を単に外部からインターネット経由で見れるようにするのはごく初歩の話であって、その先にある無限の可能性を想像しながら、進めて行くことが必要です。
その先にはAIなどの技術を応用した無人・自動化され、小ロットで高度にパーソナライズされた個別製品を生産、流通し、最適なタイミングで供給される世界。
最も原材料調達、エネルギー効率、物流効率などの全てにおいて有利な場所において殆ど無人で生産されるため、原価は低く抑えられ、付加価値に応じた比較的安価に供給されるでしょう。
現在起きている人件費が安い製造場所を選択する必要もないでしょうし、物流費がキーになるようなものは恐らく、消費地に近い場所に立地していくように思えます。