本当の問題は旧型PLCのIoT化

これから設置する設備をIoT化することは然程難しいことではありません。なぜなら、最新の機器は最新の通信規格に対応しているからです。問題なのは、既に稼働している設備多種多様な旧型PLCをIoT化して情報を取り出すことなのです。

最近直面したIoT化の課題

私はある食品メーカーから依頼されて、既に稼働している複数の工場にある多くの設備からリアルタイムでデータをクラウドに連携し、外部から監視できるようにする、いわゆるIoTのプロジェクトを実施していました

最初は、その食品工場はバッチ生産でラインスピードも然程速くないため簡単に行くだろう、と気軽にお受けしていました。しかし、実際にそれをやろうとすると下記のような様々な困難に直面することになったのです。

主要な課題

  1. 工場・設備が古いため、そのコントローラ(PLC)も多種多様な旧型のものが混在していた
  2. PLCのメーカーもまちまちで、通常のイーサネットの口すらなく、増設も出来ないものが存在する
  3. 工場の環境が悪く、通常のオフィスやサーバールームで使うような機器は使えない
  4. 特に夜間、休日など、その工場は度々瞬停(瞬時停電)があり、その度に保守員が再立上げをすることも出来ない
  5. 最新のIoT通信手順の実装
  6. セキュリティーをどの様に担保するか

 

IoT化の問題はこれから建設する工場・設備ではない

様々な取り組みがある

先日、とあるアメリカの有名なソフトウエア会社が主催するカンファレンスに出席してきました。ご多聞にもれずその会社もクラウドビジネスにシフトしようとしていて、その主要なテーマとしてAIやIoTの話題も多く出ていました。

どの様な新規ソリューションや提案があるのかな、と楽しみに聞いていましたが、そこでの説明の内容はこれまでも何度も聞いたような次のような話でした。

  • 日本の主要なFA機器メーカーや名だたるシステム会社が連携し、オープンプラットフォームのコンソーシアムをつくる
  • FA層は各社の規格があるため統一は難しく、FA層と上位コンピュータ(クラウド)の間にエッジコンピューティングを担う中間層を設ける
  • 中間レイヤーに持つべき情報の構造(データモデル)、アクセス手順のみを取り決めて公開する

これまでもEther-CAT-PPROFINETなどFA層の通信規格を統一する話が何度も有りましたが、今回はエッジコンピューティングを念頭に置いた取り組みのようです。

それはそれで、方向性として納得がいく話で、組立ラインのようにラインスピードが速い産業では、クラウドに判断や調整などの自動機能を持ってもラインスピードに追従出来ない可能性が高いためです。

組立系の産業はエッジコンピューティングに向かう

 

しかし、今の私が抱えている課題を解決してくれそうにはありまあせんでした。これからの規格を統一することで、今後発売されるFA製品などはその規格に準拠したものが出てくるのだとは思いますが、困っているのは過去の製品なのです。

FA製品に限らず、多くのメーカーにとって過去に販売した製品への新しい規格反映や追加ユニットの開発をするインセンティブは殆ど働きません。儲からないからです。出来れば新しい製品を購入して欲しい、と言うのが殆どのメーカーの本音です。

 

既設設備の更新

一方、ユーザー企業にとって、過去の工場を建設した時に設置して問題なく動いている設備の制御装置を、IoT化のためだけに新機種に更新するような予算はなかなか出しにくいのが実際のとろだと思います。

また、一部の設備のPLCを新機種に更新し、情報を取得できるようになったところで見えることは限られるため、相当数存在すると思われる工場内の殆どの制御装置を更新し、取得したデータをどの様に分析・活用し、どの程度の効果を見込むのか、大規模な投資に見合う投資効果を算定する必要があります。

やはり、工場間やSCM上の上流、下流企業とのデータ連携、需要変動への柔軟・迅速な追従など、ビジネス的な効果を見積もったり、AIを導入し、操業状況を学習させた人工知能による半自動操業による省力化、品質安定などの効果を見込む必要がありそうです。

IoTにより可能となったコスト基準のSCM最適化

最終的に至った既設PLCをIoT化する方法

下位FA層との接続

今現在プロジェクトで困っているのいで、これから規格統一され発売されるような機器に期待は出来ません。海外メーカも含め、様々なFA機器メーカーの機器を探して、旧型のPLCや制御機器との接続を研究・テストしてもるしかなかったのです。

どこまでのリアルタイム性を求めるのか、制御機器からのデータ取得だけではなく、値の設定やインターネット経由で外部からの操作まで可能とするかなど様々な検討課題・要素はありますが、最も可能性がありそうだったのが、海外で普及しているソフトウエアPLCをコンピュータに実装して、PLC間のリンクを確立する方法かも知れません。

その意味でもまだこの分野には多くの未解決・検証要素が残っているのは確かです。

既設PLCのIoT化支援サービス

クラウド環境との接続

そして、クラウド環境との接続にも結構なハードルがあることが判明しました。それは、多くのクラウドベンダーが協調してIoTの最新通信規格を取りまとめている特殊な手順でしか通信出来なかったのです。

その手順(プロトコル)自体の考え方は正しく、軽量、低遅延、セキュアな実装など、正しい方向ではあるのですが、その通信プロトコルをFA機器に実装するのは殆ど出来ない状況です。

 

FA機器に上位通信規格を実装出来ない理由

  • CやC#、Java、Pythonなどの高級言語での実装を前提としている
  • 通信プロトコルを構成するライブラリが、いわゆるPC上で作成することを前提としている
  • これらの言語はFA機器上で動作させるための開発環境も無く、そもそもCPUが違うため、同じ命令セットで動作しない

結局、短期間でこれらを解決するために、組込み機器用途のBox-PCを別途準備し、クラウド通信プロトコルと多少の機能を実装しました。

 

Box-PCからPLCのメモリーをリアルタイムで参照し、そのままクラウドに送る仕組みです。あまり格好良いとは言えませんが、現時点で最短納期で可能な仕組みは結局これしかありませんでした。

この仕組みにした良い点もあります。上記の 3.は元々産業用途の組込みPCですので、全く問題有りません4.も産業用PCですので、電源が戻ればOS、アプリケーションとも自動復帰しますし、そもそもバックアップ電源を内蔵していたりします。

ハードディスクも待たずメモリーで構成されたSSDですので問題ないと思われます。

時間的な余裕があれば、上記のBox-PCにソフトウエアPLC、もしくはリアルタイムOSをインストールし、各社のPLCとのリアルタイム通信プログラムを記述する手もあるとは思います。

しかし、将来的には、過去に発売したFA機種、他メーカーの機種もふくめた通信が出来るコントローラーをFA機器メーカーが出してくれることを期待しています

 

 

 

 

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