事業会社にとってERPなどの基幹システムの更改は数年に一回の大仕事です。この大仕事を任せるITベンダーの選定は、その後のERP導入などのプロジェクトの成否を分ける大きな分岐点となります。
但し、このITベンダーを選定する作業自体、やったことがある社員は社内に殆どいない状況でしょうし、どの様に進めれば自社に最適なITベンダーを選ぶことができるのか途方にくれている方も多いかと思います。
そこでITベンダー選定において、失敗しない為にどの様な視点でどのようなアプローチで選んだらいいのかをこちらでご紹介しています。
システムの作り方が変わってきている
クラウド化でプログラム開発は不要に
ここ1,2年でシステム開発の手法が大きく変化してきています。それは、Amazon、IBM、Microsoft、Googleなどの巨大ソフトウエア会社がこぞってクラウド戦略にシフトしているところが大きいと思います。
日本の大手SIも負けじとクラウドの方向にシフトしてきていますし、特に通信インフラの整備が進んでいる先進国では情報が手元のPCに保存されているのか、場所も判らない海外のデータセンターにあるのかすら殆ど意識することが無くなってきています。
それでは、このクラウドシフトがなぜシステム開発の方法を変えているかと言うと、上記のような巨大資本でグローバルに展開している会社が本気でデータセンターに投資し、クラウド上でボタン一つで契約し使えるビジネスソフトウエアや機能部品を開発しているからです。
その投資額は日本国内に閉じこもっている日本のSI会社とは桁が2、3桁上の巨額の投資金額なのです。これらの企業がグローバルで使える機能部品を提供しているおかげで、それらを組み合わせるだけで、かなりのレベルのビジネスソフトウエアを構築できるようになってきています。
それもイメージ的には、従来のスクラッチ開発の3分の1~5分の1程度の期間で構築可能ですので、自ずと構築費用も数分の1となります。システム開発は殆どが人件費ですので、開発期間の短縮は費用面でのメリットも大きなものとなります。
ITもシェアする方向へ
そして、使用料も従量課金と言う使用した分だけ支払えば良いような契約であったり、使わなくなれば翌月から止められるような契約も可能です。ようやく、システムも保有価値から使用価値に移行するのです。
車などもそうですが、世の中はシェアリング・エコノミーの方向へ進んでいますので、その大きな潮流、文脈の中で考えれば当然の流れだと考えられます。
企業はシステムを開発し・所有することが目的ではなく、それを使って業務処理を効率化したり、売上・利益を最大化させるのが目的ですので、ビジネス効果が見込めるのであれば、一刻も早く使えるようにするべきです。そして、それは所有する必要性はなく、借りて使えればいいのです。
やっとです。この様な環境変化の中、どの様にシステムベンダーを選んでいけば良いのか、従来の選択基準では間違っている可能性がかなり高いように思います。少なくとも、開発規模ではないので、使う技術を持ったベンダーを選んでいくのだと思います。
ITベンダー選定の基準・視点・スタンス
それでは、どの様な視点でITベンダー・パートナーを選んでいけば良いかですが、自社に馴染みがあり、自社業務をよく知っているなどの点はあるかとは思いますが、少なくとも下記のような視点を持っているべきではないかと考えています。
1.システム化したい業務要件をRFPとしてまとめ、中立なスタンスでベンダーを選定する
まず、自社が何をしたいのか、単なる基幹システムが老朽化したためのリプレースの場合もあるかとは思いますが、それでも相応の金額を使う以上は、少なくとも最新技術で可能となった機能は取り込むべきかと思います。
そうでなければ、「単に安いほど良い」となてしまい、逆に何の提案もない労務提供だけの粗悪なITベンダーを選定してしまうことになってしまいます。
2.SI会社の規模は重要ではなくなってきている
上でも書きましたが、ITの構築方法が変わってきているためスクラッチで1から開発するようなことがほぼ無くなってきている状況があり、昔のように自社が大企業でシステム規模も大きいため、大手Si会社でなければ無理、と言う前提が完全に無くなっています。
IT系の労働市場が発達し人材の流動性が高いため、むしろ新しい技術を取り入れている新しい会社のほうが斬新な提案が出来たりします。新しい(お金になる)技術を習得したITエンジニアはさっさと大手Siを去り、もっと稼げる会社に移る傾向があります。
結局、大手SIに残っているのは大企業だから然程頑張らなくても一生安泰だろう、といった考えの腰掛エンジニアばかりが残るやる気のない集団になってしまうのです。
3.新しい技術にキャッチアップ出来ているか
この点はITベンダーの選定において非常に重要だと思います。IT技術は進歩が速く、ちょっと勉強を怠ると直ぐにスキルが陳腐化してしまいます。
これは、AIなどの先端技術に限ったことではなく、ERPやCRMなどにおいても言えることで、クラウド化によるITツール間の境界があいまいになり、多くのPaaS機能を取り込んで、これまで出来なかった(マニュアル)作業を自動化できたり、AIがサポートしてくれたりするようになってきています。
4.ITベンダーとはギブアンドテイク
取引が発生するまでは例えベンダーと言えど、会社対会社の対等な関係です。自社の情報を全く出さずに有意義な提案を得ることは出来ないと考えるべきですが、ITベンダー側も何の特別な情報も持たずに、顧客の情報ばかり聞き出そうとする会社があります。
この様な会社ほど、いざ提案させると内容がないものだったりしますので、あくまでITベンダーとは対等な立場でギブアンドテイクだと考えておいたほうが良いでしょう。
5.相手からの情報だけではなく、自分自信で一般情報を入手する
特に医薬品や医療機器などの特殊な規制対応が必須で求められるような業界の場合、そこを正しく理解しているベンダーを選定していくしかありません。
その為には、ベンダーが持ってくる情報だけではなく自分自信で情報を収集するほうが安全です。なぜなら、大手SIであれば殆どの業種・業界へのIT導入実績があるのは当然ですが、重要なのはそのPM・メンバーが本当に自社を担当してくれるかです。
IT業界は人材の流動性が高いこともあり、知識・経験は個人にしか蓄積しません。従って実際にそのプロジェクトを担当したPMでなければ技術進歩もあり、殆ど意味はないと考えるべきでしょう。
6.しつこく、頻繁に営業に来る会社は効率が悪い
IT会社に限ったことではありませんが、インターネットで殆どの情報を入手できるようになったこの時代に、あえて単なる営業に会う必要性が無くなってきています。
何か有益な情報を持ってくるのであれば別ですが、そうでなければむしろ技術の人間に会うほうが有意義です。
7. 既存顧客のリファレンスをとる。グローバルの事例ばかり持ってくるSIは信用出来ない
この対応も、特に外資系のSI、ITコンサルティング会社によくありますが、まず意味がないでしょう。
8. あくまでサービス業として選ぶ
これは言うまでも無いかも知れませんが、IT会社もあくまでサービス業としてどうなのか。そのスタンスを見極めるべきです。
9. 基本契約をよく確認する
この点は非常に重要にも関わらず見落とされがちなポイントです。ITベンダーを選定し、これから一緒に頑張ってプロジェクトを進めていこうとしている段階(ハネムーン期間)に、その相手との契約を隅から隅まで確認する人は少ないようです。
しかし、特にERP導入のような長期にわたるITシステムを導入するようなプロジェクトでは、プロジェクトの途中で関係が悪化しプロジェクトが頓挫する、悪ければ訴訟問題に発展するようなことも最近増えています。
人気ドラマの「下町ロケット」ではないですが、契約(法務)に非常に長けたIT会社もあるため、IT会社との契約は先を考ええよく確認されることをお勧めします。
10.予めSIベンダー選定の基準を設けておく
当然のことですが、RFPを作成してIT会社に提案依頼をする前に、提案自体をどう評価するのかを予め決めておく必要があります。何が今後の自社の発展の為に重要なのか、新しい視点でのアイディアや技術を提供してくれの会社なのか等。
どうITベンダーを選ぶか
大企業の場合
特に大企業にありがちなのが、自社の規模のシステムを開発できるのは名前の通った大手SI会社しか出来ない。もしくは既にそのような会社にいわゆるベンダーロックインされていて、自社ではどの様な機能をどこの部署の誰が使っているのか全く把握していないため、そのSI会社以外に依頼するのは危険、出来ないパターンです。
または自社は現場の意見が強く、自分達も業務が判らないため現場の言いなりで追加開発をしているようなケースです。これは結構根が深い問題ですが、割り切りが必要だと思います。
先に述べた、クラウド環境上の機能部品やSaaSと言われるクラウド上のアプリケーションも多数あるので、これらのAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)と言う外部連携機能として使うやり方もありますし、要は既存システムからの移行がうまく出来れば良いわけです。
もちろん既存ベンダーは、出来ない理由を並べ立てて抵抗するとは思いますが、とにかくシステム開発の仕方が大きく変化してきているのですから、競合他社はその恩恵をフルに享受したスピードを身に着けていると考えるべきです。
情報システムが戦略基盤となっている業種・業態が多い中、その様なベンダー・ロックイン状態によって競争力をそがれている可能性が高いと考えざるを得ない状況かと思います。
中小、ベンチャー企業の場合
殆ど、既存の自前システム資産を持たないとすれば、それはチャンスであり現代の圧倒的なビジネススピードとその基盤となるシステム構築スピード・価格のメリットを生かし一気に成長出来る可能性を秘めています。
とにかく、既存のつきあいのあるSIベンダーや、たまたま営業に来たベンダーの言うことを真に受けず、上記のようなSIベンダー選定の基準・視点を持って、自社主体で判断すべきです。
最後に一言付け加えるとすれば、特に既成概念にとらわれ、そのような話し方をする営業、コンサルには注意したほうが良いかと思います。時代は変わってきているにも関わらず、新しい技術の取得を怠りキャッチアップ出来ていない可能性が高く、自分達の都合を言っているに過ぎないからです。