工場の設備をIoT化し、AIを適用しようと考えた場合に現状では様々な課題が存在します。そして、日本はFA機器メーカーの身勝手な戦略によって日本はガラパゴス化の道を歩もうとしているのです。
こちらではその辺りのご説明しています。
工場のIoT化で考えるべき点
工場と一言で言っても、東京の大田区や大阪で言えば東大阪市にあるような町工場から、大規模な自動車の組み立て工場など様々です。
ここでは、NC加工装置が個別に数台あるような金属加工などではなく、ある程度の規模で生産活動を定常的に行っている半自動化工場を前提にお話ししたいと思います。
PLCが工場設備を制御している
日本において、ある程度の規模で生産活動を行っていると、その生産設備やライン自体はPLC(Programmable Logic Controller )又はシーケンサーと言われる一種のコンピュータで制御されていることが殆どです。
生産設備をコンピュータでコントロールしようとすると応答速度が約束されていなければ、うまく装置間や装置の内部動作が連携して動く事が出来ません。そのため、PLCは特殊な言語で書かれ、動作周期が約束されたリアルタイムOSで動作します。
昔の設備はリレーと言われる実際の回路を入り切りする継電器でこのようなロジックを組み、装置を動かしていましたが、これをコンピュータに置き換えたものと考えれば良いかと思います。電気回路で構成すれば殆ど遅れなく同時に電圧がかかってくる訳ですから、これをソフトウエア的に実現するには、プログラムがごく短時間の一定周期で動作するようにする必要があります。
そして、工場にある殆どの製造装置は、センサーからの入力をPLCに取込み、モーターやシリンダー、電磁バルブなどをPLCがコントロールします。
PLCと接続するしかない
工場の設備をIoT化しようとすると、殆どの情報を持っているPLCかもしくはその上位のコンピュータから情報を吸い上げて、通常はインターネット上のクラウド環境に取り込むことになります。
よく、工場をIoT化する、と称して単体の温度や湿度センサーを取付けてスマホ等のモバイル端末で見れるようにした事例を見かけますが、このような単純な1,2点の値を見る要件は殆どないのでは無いかと思われます。
やはり、IoTとしてインターネット越しに状況を見たり、一定の操作をするとすると下記のような情報を見たいと思うのが通常だと思います。その時に必要になるのが
PLCから情報を吸い上げるための改造であり、インターネット環境へのシステム的な接続なのです。通常IoT化を進めているようなIT会社にとって、ここに大きなハードルがあります。
そして、PLCとデータ的に接続して行うとしたら下記のような点になります。
【監視するとしたら】
- 工場、装置の稼働状況、稼働率
- 生産数量や歩留まり、ロスの数量
- 設備の不具合、故障やその予兆
- エラー、警報
【操作するとしたら】
- 生産品目や数量などの計画の変更・見直し
- 装置の動作プログラムの入れ替え
- 実際にオペレータが来る前の段取り変えや予熱準備
- 警報の停止
- など
工場のIoT化対象はPLCだけではない
上記ではPLCに限定してお話ししましたが、実は個別のNC(numerical control)装置と言われる、主に加工装置や産業用ロボットなど、通常の工場では多くの設備が連携して動いています。
これらの装置は更に厄介で、通常はメーカー毎に仕様が異なるコンピュータが直接解釈できるマシン語に近いマイコン的なものが殆どですので、実際にこれらをIoT化しようとすると、その上位で指示を与えているコンピュータと接続することになると思われます。
もっとも、これらの個別装置を直接インターネット越しに遠隔で見る要件がどれほどあるのかは今後の世の中の進展次第なのだとは思います。むしろ、AIに学習させるためのデータをこれらのNC装置から取得する目的のほうが多いかと思います。
日本固有の問題とは
上記では、工場(設備)をIoT化する場合、PLCの改造が必要となる点を説明しました。ここで、日本には固有の問題が存在することをお伝えしなければいけません。それは、日本メーカーがこれまで何度も犯してきた間違いなのですが、グローバル標準とかけ離れた独自の仕様で作ってしまうことなのです。
ガラパゴス携帯やNECのPC-98パソコン、ソニーのベータビデオ、MDなど、多くの日本固有仕様が時代の流れと共に淘汰され、ユーザーが巻き込まれてきました。
日本メーカーの特殊仕様FA機器の問題
無論、海外にもPLCは存在し、FA(ファクトリーオートメーション)のデファクト・スタンダードはドイツになりつつあります。PLCの個別仕様としては下記のような点が挙げられ、これらが日本メーカー製のPLC間の連携すら難しくしています。
ラダーシーケンスでプログラムしてきた
ラダーシーケンスとは、昔のリレー回路を模した梯子状のロジック標記ですが、海外はこれを含む6種類のプログラム記述が統一され、どの各型で記述しても出来るようになっているのが標準です。
PLC間の通信規格が独自
これが一番困るのですが、同じメーカーのPLCでも古い機種とは繋がらなかったりもしますし、メーカーが違えばほぼ接続できません。
海外ではModBusと言われるPLC間の通信規格や最近ではEther-CAT、OPC-UAと言った企画で統一されようとしていますので、どの様なメーカーのものでも簡単に接続可能です。
現在では日本メーカーもこのModBusや最新のEther-CAT、OPC-UA等に対応しようとしていますが、追加ユニットを購入する必要があったり、旧式のPLCではそのユニットすら付けられなかったりします。
高級言語でプログラム出来ない
PCで動作するようなプログラムを記述するC言語やC#、.NET、Javaなどの、人間が理解しやすい言葉に近い記述をする言語を高級言語と言いますが、
日本で独自に発展したハードウエアPLCにはこれらの言語でプログラムを実装することがほぼ出来ないのです。
これらの高級言語でプログラムを実装するクラウド環境や、通信プロトコルをPLCに載せられないことを意味し、非常に問題です。動作周期を保証する必要があるPLCにこれらのプログラムを入れられると動作周期が変動してしまうような問題があり、技術的に難しい事も有るのだとは思います。
独自マイコンのハードウエアPLC
現在のFA領域のデファクトスタンダードは言うまでもなくドイツであり、海外では既に、PCに載せたリアルタイムOS上で動作するソフトウエアソフトウエアPLCをインストールして使うやり方が主流です。対して日本のFA制御機器メーカーは古くから独自仕様のマイコンを積んだハードウエアPLCを売ってきました。
私もPLCと言えばFAメーカーのこれらハードウエアPLCしか知りませんでしたので、長年これが普通だと思っていました。しかし、実はそうではなかったのです。
どうもいろいろ調べると、昔、ドイツやフランスメーカーのPLCソフトをコピーして改良し、自社ハードに固有のソフトになってきたものが現在の日本のFAメーカーが販売しているハードウエアPLCのようです。
日本特有の改善・改良が長い年月の間に独自の進化を遂げ、そしてまたガラパゴス化しようをしています。
まとめ
上記のような、工場(設備)を単にインターネット経由でモバイル監視するだけでも様々な課題があり、特に日本の古い製造業では、数十年前のPLCで動作しているような設備が多数ありますので、更に問題を複雑にしています。
やはり、少なくとも現時点ではこれらのPLCとインターネットの間にゲートウエイ的なコンピュータを入れるのが良さそうです。そして、このコンピュータにPLCとクラウド等のインターネット環境の仕様の違いを吸収する仕組みを入れる必要があります。
日本の製造業のIoT化がなかなか進まない原因は、新しい製品の規格の問題ではなく、膨大にある旧式の制御機器がつながらないからなのです。