全ての設備・部位にセンサーを付けてデータを収集し続けるなど非現実的です。むしろ、その必要もなく各設備の故障の癖を捉えることが重要であり十分と考えられます。DEXCAではこれまでの製造業のお客様とのパートナーシップで培った保全ノウハウに基づき保全活動の高度化をご支援させて頂いております。
設備の保全レベル
昔はのんびりしていた
言うまでもなく、日本は戦後の復興を製造業の発展により成し遂げてきた国であり、現在では第三次産業であるサービス業に従事する人が増えたとは言っても、今だに外貨を稼ぐ手段の大半は製造業に依存していると言っても良い状況だと思います。
私は大学を卒業し、新卒であるプロセス製造業の会社に入社し、工場設備、特に計装・電気設備のメンテナンス、プラント建設の部署に配属されました。
当時はのんびりしたもので、故障したら、センサーや調節弁・バルブなど、もしくは制御盤の回路基板を交換しに行ったり、それらの補修部品の購入手配など、あまり考えもせずに、そういうものだと思って対応していたと思います。
予防保全の取り組み・保全レベル
現在、特に AI 機械学習を売り込もうとするIT企業などが、新しい概念ででもあるかのように予防保全、予知保全などと大々的に広告を出していたりしますが、当時から予防保全の考え方はあり、下記が従来からある基本的な考え方かと思います。
- 壊れてから直す = BM (ブレークダウン・メンテナンス)
- 周期的に故障する設備・部品に対して、交換周期を予め決めておき、定期メンテナンスする = TBM (タイム・ベースド・メンテナンス)
- 状態を監視し、故障の予兆が見えたらメンテナンスする = CBM(コンディション・ベースド・メンテナンス)
1.⇒3.の順番に保全対応レベルとしては高度化していきます。
全てを故障予知に基づく予防保全には出来ない
全ての設備、部品を上記3.のCBMに出来る訳ではありません。これは、実際に保全活動の仕事をされている方であれば当然ご存知のことかと思います。
1工場、設備にどの位の部品が使われているかを考えて頂ければ、当然のこととして理解頂けると思いますが、下記のような理由があります。
- 全ての設備、部品の故障をセンサーなどで感知し、通信費用を掛けて膨大なデータを収集し続けることなど、費用面を考えても非現実的
- 技術的に故障の予兆をセンサー等で感知できるものと、出来ないものがある
- その単体設備として中心的な機能の場合、設備の設計として最初から状態監視の機能が組み込まれていることが多い
むしろ、私が工場設備のメンテナンスをやっていた30年近く前から、保全員は自分が担当する設備を巡回見回り、異音や、振動、匂いなどとして肌で異常を感じ、おかしいと思ったら、そこにセンサーを取り付け、紙のチャートなどに記録をとって観察していました。
そう言う意味では、現在言われているようなIoTでうんぬん、などは何ら変わっていない従来から当然実施していることに最新のテクノロジーを応用したに過ぎず、何か新しいことが出来る訳ではないと思います。
出来るようになること、やるべきこと
設備の異常検知だけであればPLCで可能
昔は難しかった、主成分分析などの多変量解析もPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラー)のみでできるようになっており、FAの世界の方々の中では既に良否判定などで使われています。
FAの世界のデータのみを対象にするのであれば、改めてAIに学習させる為にIoT的な対応でクラウドにデータを蓄積してなどと言う対応は不要なのです。
IoTだから出来るようになった事
ここまで読まれた方は、なんだ、と思われるかも知れないですが、実は、この先を考えることが重要なのだと私は思っています。
全ては上記3.のCBMにすべき、などと言うつもりはなく、むしろ下記が重要なのだと思っています。
個々の設備・装置の特性を熟知した保全マンの方々の知識・知恵と、最新の機械学習やクラウド基盤での膨大なデータ処理能力を使う事で従来は紙のチャートを見て人が判断していた異常の原因を特定したり、事前に知ることが出来るようになる。
それは、人が単一の紙のグラフを見ただけでは解らない、他の要因との関連性、因果関係を膨大な要素を関係づけて分析し、解き明かすことによって可能となります。
例えば、何か機械の軸が折れる、破損するなどの場合、振動センサーを取り付けグラフ化することで振動していること自体は把握できます。恐らくそれは、機械設備が動作する周期に応じて振動するのは容易に想像できます。
紙に印字されたグラフを見ていただけでは、単に機械の動きが見えることでしょう。しかし、そのグラフに合わせて周囲の他の大型機械が別の周期でたまたま近くに来た時に振幅が大きくなって、負荷が掛かっている。
ある製品を搬送している時に設備に干渉して軸がこすれている、など、もしくは、ある重量物が一定回数動作した時に故障になるなど。
周囲の環境、操業状況など多くのデータを同時に分析し、何が故障の根本原因になっているかを理解出来るようになるのです。
そうして、根本原因が特定できればその根本原因のほうを見ていれば交換の周期、タイミングを決める事が可能となります。
同じところにセンサーをつけっぱなしでデータを取り続ける必要はないため、次に故障頻度が高い設備、故障した場合に操業に影響が大きな設備の観察に移ればいいのです。
全てがこれで上手くいくとは言えない面もありますが、少なくとも従来の熟練者の感と経験に頼ったメンテナンスに比べれば、はるかに操業への影響を減らすことが可能です。
私の感覚では、本当に故障した場合に大きな影響を及ぼす重要設備は常に状況をセンサー等で監視し、その他多くの設備・部品はTBMで良いのだと思っています。
設備の故障の癖を知り、保全計画に組み込む
個々の設備の故障の癖を把握し、適切な保全周期を保全計画に組み込みます。故障を0にすることは恐らく出来ません。それは、生産設備を含め、全ての工業製品が一定の耐用年数で設計され、バスタブ曲線と言われる故障率で、購入当初は初期不良が多く、その後安定期が続き、設計耐用年数に近づくと再び故障が増えるように出来ています。
多くの部品が使われていればいる程、確率的には故障の率は高くなるのは当然です。
要は生産活動に影響を及ぼさなければ良いのです。全ての生産ラインにはボトルネックがあり、それは生産する品種などによって変化しますが、生産上のボトルネックになる設備はどんなに単純な設備でも重要設備ですし、そこの故障を最小限にすれば原理的には良いはずです。
自社の生産ライン上のボトルネックを知り、その他の設備にどの位の余裕がるのか、それらがどの様な過去の故障履歴があり、現在も持病として故障の癖を持っているのかを把握し、メンテナンス部品の持ち方なども含めた適切な保全計画を立案することで最小限のコストで最大限の効果を生みます。
メンテナンスコストは0が理想ですが、そうはいかないので、適切な保全計画が重要になります。