需要予測・計画の重要性は今更説明するまでもないことと思います。全てのSCMの考え方の基本は需要を予測・計画し、その需要を下流へ連鎖するところから始まります。
そして、この需要予測の精度は情報の質と鮮度が大きく関わり、IoT技術の発展とその情報を使ったAI予測の効果が存分に発揮される環境が整ってきているのです。
SCMの基本コンセプト
SCM(サプライチェーン・マネージメント)は新しい考え方ではありません。既に数十年前から、言われていたことであり、その基本は現在でも変わっていないものと思います。今更ですが、その基本的な考え方は下記のようなものです。
- 需要予測・計画に基づくPSI計画( Production / Purchase / Sales / Inventory )
- 需要連鎖計画とサプライ計画の短サイクル化
- 引き付け生産・調達
- 在庫の後方配置・最適化
- スループット会計(含まれないかも?)
ここでSCMについてあまり詳細に触れるつもりはありませんが、要は進展してきたIT技術を使って、これまで手計算では難しかった週次の所要展開計画やサプライ計画を、コンピュータにより、随時に近いサイクルで再計算することで需要変動に俊敏に追従出来るビジネスプロセスを構築することが可能になってきています。
ここでは、需要が中心であり、需要予測が当たっている、若しくは当たらない前提にたって意思を持って需要を計画し、もっと言えば、その計画通りに営業力により物を売ってくることを前提としています。
需要予測・計画の精度が重要
需要予測精度の恩恵
需要予測が正確になることによる良い事が多くあります。例えば、下記のような点です。
- 無駄な在庫を持たなくて済む、廃棄、不良在庫が無くなる
- ぎりぎりまで生産せずに、多くの製品に転用できる原材料の状態で持てる
- 資金(資本)効率が上がる
- 生産計画など、作業員のシフトスケジュールを組みやすくなる。休みやすくなる
ネットから得られる情報が加速度的に増えている
SCMの考え方が発展したころは、メインフレームと言われる大型コンピュータの時代が終わり、現在も使われているようなクライアント・サーバ環境に移行しつつあったような時代だと思いますので、ある程度の計算能力を手軽に手に入れられるようになったころかと思います。
この計算能力を使って、世界中の需要点(=営業所、個店、自販機、顧客など)から網の目状の物流拠点、物流網を経て自社工場、原材料サプライヤーまでのサプライチェーンネットワークをコンピュータ上にモデル化し、需要データを下流(顧客)から上流へと連鎖計算することが可能となってきたころではないでしょうか。
この計算は、それぞれの物流、生産などのロットサイズやサイクル、在庫量、補充発注タイミングなど多くの要素を含むため、当時としてはかなりの計算能力を必要としていました。
ビジネスモデル、戦略トレンドにその時代の技術の進歩が大きく関連しているのです。
そして、今、軽薄短小への流れは加速し、インターネットの技術基盤が発展してきた事により、新しい流れが起きているのだと認識しています。
それは、従来よりも、手軽に、リアルタイムで世界中の情報が入手可能となり、それは大企業のみのものではなく、むしろ個人であってもほぼ大企業と同じレベルの情報を入手可能となっているのです。
需要連鎖にもIoTが生かせる
言うまでも有りませんが、需要情報(データ)はサプライチェーンの下流(=最終消費者)から上流(原材料の生産者)の方向へ連鎖します。
そして、逆に供給(サプライ)は上流(原材料の生産者)から下流(=最終消費者)へ連鎖させます。正に企業をまたがって情報を受け渡ししていくわけですから、現在のインターネット・IoT技術を最大限活用可能な領域であり、これにより、様々なSCM上のビジネス効果が得られるようになってきています。
- 最低限の在庫保有で済む
- 物流ルートやロットサイズ、費用の最適化
- 計画連鎖
情報はお金に等しい
この事を真っ向から否定する人は現代ではまずいないのではないかと思います。情報を持っているか、持たないかは大きな富の偏在を生みます。
仮にある会社が画期的な製品・技術を開発し、ほぼ全ての癌を完治出来る医薬品を開発した事をあなただけが知っていたらどうでしょうか、私ならその会社の株を借金してでも多く買うでしょう。
銀行や証券会社は情報をやり取りする情報産業ですし、情報はそれそのものがお金なのです。
需要予測に増えた情報をどう生かすか
以前、とは言っても15年以上前のことですが、ある飲料メーカーから依頼されて需要が何に関連しているか、プロモーション施策を実施した時にどの程度売り上げが伸びたか、相関関係を調べた事がありました。
結果は商品にもよりますが、缶コーヒーなどは、プロモーション施策の効果がある程度あり、そのプロモーションリフト量も、投下したテレビCM本数や自販機に取り付けたポップの枚数などに応じて増加していましたが、水や炭酸飲料などは、その地域の気温や湿度に大きく依存していました。
もっと言えば、地域のお祭りや小学校の運動会などのイベント等の影響のほうが大きかったのです。当時は結局、「営業マンが地域に密着した情報を収集してきて本部に吸い上げ、各拠点の需要に反映するのが得策だ」、となったような気がします。
しかし、現在であれば恐らく違った方針・施策になったのだと思っています。その地域や必要であれば数百メートル四方の天候の情報も入手可能ですし、地域の催し物の情報、ビルなどの建設計画など非常に多くの情報をほぼリアルタイムに入手可能です。
これらの情報をテキストマイニングやAI分析し、需要に対してどの程度の影響があるのか、それを伸ばすにはどうしたら良いのか等、情報の蓄積をすれば、かなりの精度で予測が可能となっています。
要は情報なのです。必要であれば、地球の裏側で起きている事でも個人がツイッターなどで流してくれるのですから。