こちらのブログで書きました、システム開発の基本的な契約類型(3パターン)
は日本の法律で明記されているシステム会社との契約形態ですが、その他に、IT業界の慣習としてよく使われている用語があります。
恐らく契約形態を意図して使われている言葉だと思いますが、よく間違われる点ですのでこの辺りについても多少触れておきたいと思います。
これらの用語は、通常の会話の中で使う分には何の問題もありませんが、基本契約書や注文書などの中では使用できません。
また、もし、これらの用語を元に契約を結んでいるプロジェクトで仮に訴訟になると、日本の法的には内容が不確定となってしまいますので、注意が必要かと思います。
SES契約は日本の法的にはない
普段使っているSESとは
私も結構な頻度で使っているITの契約形態に絡む用語にSESと言う言葉があります。恐らく、日本のIT会社と何等かの取引をした経験のある方であれば聞いたことがある言葉ではないかと思います。
これは、システム・エンジニアリング・サービスの略で日本の法律的には定義されていない用語です。内容的には下記のような特徴のある契約内容を指しているものと思います。
- 労働法規などでは業務請負の一種とみなされる
- 労務管理や指揮命令系統が発注元企業から独立している必要がある
よって杓子定規にとると、SESで派遣されている技術者の請負側管理者が別にいて、発注社側はその管理者に対して作業依頼をし、管理者が現場に派遣されている技術者に対して作業指示する形を採る必要があります。
派遣されている技術者自身が管理者である体をとることがよくありますが、本来は認められないのだと思われます。
- 賃金は技術者の労働力に対して(基本的に時間契約で)支払われる
通常は契約の中で上限の時間を設け、その時間を超えた時間に関しては割り増し残業代を請求することはよくあります。
実態がどうであったかが重要
SES契約をしたつもりでも、実態としては直接作業指示をしていたりして、派遣契約と変わらないと、偽装請負とみなされる可能性があります。
このようなものですが、実態としては技術者派遣とほぼ同じように使われる場合が多いかと思います。よって、偽装請負とられないように、うまく運用する必要があります。何れにしても程度問題だと思います。
その他にPHP・PMBOKなどに定義されている用語
IT会社の人と話していると、時々耳にする用語に下記のようなものがあります。
特に海外で決められたITの方法論などに出てくる用語ですので、そのまま使われるケースが多々ありますが、正しくその用語の意味を理解して使っている人は以外に少ないように思います。
タイム・アンド・マテリアル契約
これは準委任契約に似ていますが、内容としては単価のみが確定している契約の意味となります。金額の決め方を指していると考えたほうが良いかと思います。
実費償還契約
こちらも日本の準委任契約に似ていますが、開発などの作業範囲(スコープ)を確定できないような場合に用いられ、実際に掛かったコスト+受注者の利益分を最終的に請求する契約方式です。
アメリカなどでは結構多い契約形態のようです。
定額契約
こちらは日本の請負契約に近い形態で、契約締結時点で価格を確定する方式です。作成する内容や大きさ(量)、作業量が予め確定しているような場合に使用されます。
本当に発注者側が内容を把握し、その製造(開発)のみを海外のベンダーなどに外部委託するような場合は良いかと思います。
あくまで上記はIT用語であって、日本の法律用語ではありません。日本の法律で定義されているのはあくまで準委任契約、請負契約、派遣契約です。
ここを間違って契約書等で使うと、後で困った事になる可能性があります。もっとも通常の会社の法務の方であれば、これらが法律用語でないことは当然ご存知だと思います。
ちなみに、この「準委任」という言葉、どうも引っ掛かりますよね。私も最初はどうもしっくりこなかった言葉ですが、法律の世界では、法的な行為を委任するのが委任業務でそれ以外の一般的な業務を依頼するのが準委任だそうです。よって、ITの世界では全て準委任契約になります。